【小説(電子出版)】
『Red Logo ~終わりははじまり~』
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今回はここから『こぼれ話』をベースにオリジナルな書下ろし
【スピンアウト小説】リリースします!
【小説】『マッカーサー』と『新町ロケット』
【2001.4.9】青芝白梅工場設計棟 5F
「君たちが『いいもの』を作ってくれないと私たち(営業)がいくら頑張っても限界がある。
だから『君たち』には常に『世界最高』の製品を世に出し続けていってほしい・・・」。
ここで彼の言う『世界最高』とは
「ノートPC世界シェア7年連続No1
(1994-2000調査会社 BCN調べ)」
という『今』の『実績』のことだ。このフロアに居たエンジニア達、約百人が急遽招集され彼の話を訊いていた。
青芝白梅工場の設計者を集めた社屋、通称20号棟と呼ばれている建屋の5F。ノートPCの世界的大ヒット作「deep-blue(略称db)」を設計した「ノートPC設計部」の面々だ。
「そう、君たちみたいなエンジニアは絞れば絞るほどいい仕事をしてくれると、周りの人たちからも訊いている。これからも大いに期待しているよ・・・」
演説しているのは[青芝アメリカ社]のTOP、東田厚だ。
彼のアメリカでの活躍は、まさに『飛ぶ鳥も落とす』勢いだった。
やや恰幅のいい、この男の発言は選挙演説のごとく自信に満ち溢れていた。
東田は、この時ひそかに画策していることがあった。
「ここの彼ら『青芝白梅工場の設計者』達の実績を引っ提げれば『マッカーサー元帥』いや『青芝』の社長のイスを手に入れられる。もう時間の問題だな・・・。
私の計画は完璧だ!・・・そして次は会長、さらに、その次は『商工会議所長』だな・・・」
その夢は果て無い。
『最終的な責任は全く取らない!』
という意味で、こそこそと、スピーカーボックスに隠れて不法に国外逃亡した日本を代表する自動車メーカーの会長
・・・にも何処か似ている気がする・・・と感じたのは春樹だけだろうか。
事実、当時青芝社の稼ぎ頭であった白梅工場の設計したノートPCは売れに売れまくっていた。
たとえば具体的に春樹が知っている情報だと・・・。
「ノートPC世界シェア7年連続No1
(1994-2000)」
の具体的な内訳。日本でのシェアは低かったもののヨーロッパでは3割、アメリカでも2割強とも・・・。
「今あるノートPC、青芝製に、あらずんばノートPCにあらず」
という位の、まさに黄金期だった。
『このジャンル(ノートPC)どんどんいけると将来を見越した私の『読み』は決して間違ってなかった。
中東の仕事から、ここ(PC)に入り込んだのは、まさに私のにらんだ通り大正解だったな・・・』。
東田、内心ほくそ笑む。
「私の『青芝社長就任プロジェクト』は、もうすでに『夢物語』ではない・・・新しい時代の現実だ!」。
心の中で、ひたすら、そんな想いを巡らせつつ、東田の話は続いた。
「ここに来る前に『愛国生命』に立ち寄ってきました。皆さんもよくご存じだと思いますが当社が市場で9割以上のシェアを誇っている
『生保端末(生命保険の保険販売員が使っているタブレット型の生保計算専用PC)』PCの打ち合わせです」
当時「青芝社」は生保向け端末というジャンルにおいても国内では圧倒的なシェアを誇っていた。その影響もあるのか東田は得意げに話を続ける。
「すると(愛国生命の)担当者が『東田さん実は『面白いもの』のがあるんです。是非是非、見てってください』といわれ別室に通されました。
皆さん、何があったと思いますか?・・・」。
東田、思い切り『もったい』をつけてみる。
それは『マッカーサーの執務室と机』でした!・・・」
その自慢げな話は続く・・・。
「この『愛国生命』の本社は、かつてGHQの本部があった所です。つまり、その一室を『マッカーサー元帥』が執務室として使ってたんですね」。
「その机は、こじんまりとしていて・・・驚いたことに『引き出し』が全くないんです・・・。
つまり『マッカーサー元帥』は一切の資料は持たず、判断を仰ぐ部下に、すべての案件を『即断即決』していたそうです。
目をキラキラさせながら話す東田に、エンジニア達は皆、聞き入っていた。でもそれは『マッカーサー』の話題ではなく、自分たちの『生保端末の実績』の方だった。
そんな中、東田は直感的に感じ取っていた。それは、ここのエンジニア達が秘めている『底なしな力強さ』だった。
まるでアポロ計画で人を月に送り込むような・・・強大な力・・・。
言い換えれば『月に人を送り込む』サターンロケットのようだ・・・。
そう、ここ白梅市新町にある
『白梅工場』
のエンジニア達は「ノートPC世界シェア7年連続No1」
という素晴らしい実績を誇る、いわば世界に無類な製品開発力という
『はかりしれない』
力を秘めている連中なのだ・・・。これこそ利用しないという手はない!
「そうか・・・彼らは私を、この会社の『社長』へと一気に押し上げてくれる・・・。しかも用が済んだら切り離して捨てればいい・・・。そう、いわば、彼らは私専用の
『切り離しロケット』
だな・・・」
こうして本人が『ひそかに』計画した
『東田厚社長化計画』
は白梅市『新町』の青芝工場とのコラボにより実現された。彼の心の中では暗示的に
『新町ロケット計画』
と呼び、その打ち上げ成功に、一人、心浮かれていたのだった。
その6か月後、東田は、その計画どおり青芝の社長に就任したのだった。
しかし同時にそれは青芝社が、この『社長』の無能ゆえ『債務超過』を引き起こすという創立以来の危機を迎えるという悲劇の始まりだった。
この日以降、彼が『青芝白梅工場』を訪れることも、そして『青芝白梅工場』の彼らに、ねぎらいの言葉を掛けることも、一生涯無かった。
2015年12月、『新町ロケット計画』を無事、終えた『青芝白梅工場』は大量の早期退職者と共に閉鎖されたのだった。
[この物語は実話に基づいたフィクションです]
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